江の島の北側の埋め立て地に位置する江の島湘南港。
1964年に国際スポーツ大会のヨット競技場として整備され、相模湾を利用した周遊観光の拠点となるべく大型船が着岸可能な本船岸壁が設置されました。

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そこに、短命ながら2社による定期航路が運航されました。それが日本高速船の江の島〜熱海〜伊東航路と、今回紹介する、東海汽船の江の島〜伊豆大島航路です。


1963年12月23日、江の島〜大島航路一般旅客定期航路事業の免許を受けた東海汽船は、1965年1月24日に新造の旅客船、さくら丸を使って運航を開始しました。

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「大島温泉ホテル」(東汽観光・東海汽船発行)パンフレットより

さくら丸は客船なので、さるびあ丸のようなデリックがなくエレガントな雰囲気がありますね。

時刻を調べてみましょう。江の島~大島の片道所要時間は2時間20分。
江の島を9時に出港し、11時20分に大島元町港に到着。
帰りは16時40分に出港し、19時に到着するというもの。

日帰りの場合、現地滞在時間は5時間20分となります。
ジェット船ツアーでは片道所要時間が1時間、現地滞在時間は6時間20分と、従来の客船にしてはわりといいダイヤです。
なにより、東京から大島への航路が現在のさるびあ丸と変わらないスジで動いていることを考えると、0泊2日に対して日帰りが強みになったのではないでしょうか。夜の船旅はなかなか疲れるものです。

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そして単純に時間を比較しても、東京~大島が時間調整含め6時間かかるところ、新宿~江の島~大島の所要時間は3時間程度となっています。
東海汽船にも五島慶太の息がかかっていたので、小田急線で新宿から江ノ島に向かうことで東京湾の移動速度を高速化するという狙いがあったのかもしれません。五島慶太は昭和期にMaaSを正しく理解して行動を起こしたという点ではまさに偉人だと思います。やり方は過激ですけどね。

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「国立公園大島」(東海汽船発行)より時刻表・航路図・料金表を抜粋



しかし徐々に乗客が減少し、東海汽船は1969年6月30日をもって江の島支店を神奈川県観光(株)に業務委託して代理店化しました。
結局江の島航路は1973年まで毎日運航されましたが、1974年は夏季のみの運航となり、8月31日の運航をもって休止となります。以来35年間にわたって旅客船の運航がありませんでした。


その後、相模湾・東京湾を活用した周遊観光コースの開発を目的に様々な航路が試験運行され、その中で藤沢市によるチャーター運航が2009年6月に行われました。座席は即日で完売、9月30日にはさくら丸やセブンアイランドをあしらった記念切手が発売されるなど話題となりました。


2009年6月26日 相模湾での観光資源開発を目的に藤沢市と同市観光協会が「藤沢市民号」を企画した。セブンアイランド虹をチャーターし、江の島〜大島間を約1時間で結んだ。

(東海汽船130年のあゆみ)

写真は2009年10月21日、二回目のチャーター運航で江の島湘南港に帰ってきたセブンアイランド愛を学校帰りに捉えたものです。

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2015年度からは東海汽船の自主運航となり臨時便として運航されているそうです。


https://www.pref.kanagawa.jp/documents/28567/enoshima-miryoku.pdf
『湘南江の島魅力アップ・プラン』
(平成25年3月、湘南江の島魅力アッププロジェクト推進会議、2022年10月21日閲覧)

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この間、虹・夢・愛・友・大漁・結という6隻のジェットフォイルがどれほど江の島に来ているのか調査しています。

直近の状況ではこんな感じです。

2019 2/13~14友、4/18~19愛

2020 2/12~13友、10/22~23結

2021 2/18~19(運休?)、11/18~19(運休)

2022 10/5~6大漁


これより古いデータは不正確なものが多く整理が必要なのですが、
チャーターの頃は虹・愛が多く、自主運航では友・大漁が多いように見受けられます。
夢については情報提供を頂きましたが写真がなくあれば非常に珍しいのではないかと思います。



また、大島以外の東海汽船航路として、江の島〜館山航路が運航されています。
これは2016年6月9日(愛)と2018年3月28日(大漁)の2回の運航実績があります。



そして、実はこの前に東海汽船の船が江ノ島に着ていたという事実が発覚しました。
そのきっかけとなったのがこの切符。

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江の島航路 回遊乗車船券

読売新聞社・東海汽船・江ノ島鎌倉観光・小田急の連名


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新宿から片瀬江ノ島まで小田急で移動し、
底から江ノ島桟橋を渡り、
江の島園で展望灯台に上り、
そして江の島から月島まで戻る、
あるいは逆の経路を辿るというもの。

これを見た時は驚きました。

1968年時点で新宿〜片瀬江ノ島は運賃200円、江ノ島特急150円。ですからそれよりも前の時代で、
1958年時点では運賃120円、特急の記載はなし。まだえのしま号は定期化されていなかったようですが、これが130円だとしたらビンゴです。


しかし湘南港ができる前の切符であることは間違いなく、果たしてどのように船が運航されたのでしょうか。

そのヒントは「東海汽船130年のあゆみ」(2020年9月30日 東海汽船株式会社発行)にありました。
1951年7月〜8月に江の島行きの航路を運航したというのです。

納涼船の休航
この都市の納涼船は、東京〜三崎航路を江の島(夏期航路)まで延長したため、配船繰りがつかず休航とした。


進駐軍に占領され検問が厳しくなっていた竹芝から月島にターミナルを移転し、
竹芝に戻ってくるのが1953年。
また1951年3月には江の島に展望灯台が完成するなど、江の島観光が華やかになった時代で、
切符の券面にある登場人物がすべてそろいます。

しかし、肝心の東京〜三崎航路についての資料がありません。戦後すぐなことですから資料も限られるとは思うのですが、どのような船が江の島に向かったのかも定かではなく、その運航方式が気になるところです。
さらに、1951年夏に発売された周遊券であるという仮説が正しいことを示す資料を探していけばいいわけですが、こちらも困難を極めると思います。特に小田急の料金がピンとこないので、小田急に詳しい方、手がかりを頂けないかと考えております。

またジェットフォイルの運航履歴を探しています。
御乗船された方で、乗船日と船の名前が分かる方、ぜひともコメントいただけないでしょうか。
お願いばかりで恐れ入りますが、どうぞよろしくお願いいたします。