御船印めぐりツアー一行は、鋸山を離れ、
千葉県富津市の造船所、アイ・エス・ビー株式会社様を訪問しました。


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そこにいたのがセブンアイランド友です!
10月中旬から運用を離れ、年に一度のドック作業で整備点検を行っていて、最後は検査技官が検査して合格する必要があるとのこと。

今回は、そんな友の裏側を隅々まで見学させていただきました。

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前部水中翼がありません。今回検査のために取り外され建屋の中にあります。
水中翼の後ろには艇走時に用いるスラスタが設置されていました。小さいですが頻繁に使われているのを見かけますし、スラスタが作る波も勢いがあるのでかなり強力なのでしょう。


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水中翼の可動部ですが、かなりシンプルです。
もっと可動部分が多いのかと思っていましたが、ケーブルがいくつかあるだけ。水中翼の機構は水中翼側でユニット化されていようですね。


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こちらは後部水中翼。

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こちら、フラップと呼ばれる部品。その名の通り動翼です。後部水中翼は揚力発生のほか、バンク角を作るためにも使うので、航空機で言うところのフラップとエルロンの両方の役割をします。

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水中翼後部にフラップの取り付け座があります。

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船底部後方にあるのがウォータージェット推進器。高圧で水を噴き出すことによって推進力を生み出します。その排水性能は消防ポンプ車75台分、25メートルプールを2分で満杯にできるほどの水量を操ります。

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噴射口の手前にある半月型の部品が、水流を左右に曲げるデフレクター、その先についたU字型の部品が、逆噴射のために水流を反対側に曲げるリバーサーです。通常リバーサーは横に逸れていて水流を妨げないようになっています。

そして噴射する水を吸い込む口も船体にあります。



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こちらです!
ウォータージェット推進においてはラム型と呼ばれる吸い込み方式です。
この形状の特徴として、高速で航行することによって水を取水口に押し込み高効率の吸水ができます。

しかし前から気になっていたのですが、水中翼は折り畳むことができます。畳むと吸水路も一緒に曲がってしまうので、吸水口はどう繋がっているのでしょうか。その答えは、船底の吸水口が露出すると言うものでした。水中翼中央には吸水路だけが入っていて、翼を下げると船底の吸水口と密着してラム型になるのです。


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船底に吸水口を持つ構造をフラッシュ型と呼びます。吸水口が水面に近づくと漂流物を吸い込んでしまうリスクがあるため、通常時は異物吸入を防ぐためのグリルが設置されています。また空気圧を使って入ったゴミを吐き出させる機能も有してきます。


さて、水中翼の折り畳み機構をみて少し気になることはありませんか?


何故セブンアイランドは、水中翼を後ろだけ折り畳むのか…!

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今日の久里浜港でも、

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昔の江の島港でも、


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岡田港でも…
いつも後ろだけ折りたたんでいます!

今回案内してくださった東海汽船の方に聞いてみたのです。
すると「基本的には上げたくないが、海中の状況として上げなくてはならない場面で上げる」とのこと。
たしかに、後ろの水中翼の方が大きくて岸壁の堆積物に干渉しやすそうですしね。
でも先述のとおり後部水中翼も上げると吸水口が水面に近くなるので、浮遊ゴミの吸引リスクが上がるためできれば避けたいんだそうな。

さらに「前部水中翼は舵としての役割をするので、上げ下げすることによって操船特性が変わる」ということも教えていただきました。
水中翼には垂直方向への浮上のみならず、船の姿勢をまっすぐ維持する重要な役割があるんですね。だから前部水中翼をあげるのは最後の手段ということのようです。

では、その前部水中翼を見に行きます。

建屋の中には取り外された部品が並び、その中には主にエンジンなどのパワー系部品と、前部水中翼がありました。

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これが、ジェットフォイルの前部水中翼です。

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船体に取り付けられる台座の部分から見てみると、多くのケーブルを見ることができます。
これらは水中翼を動かすために用いる油圧のケーブルです。

中央にある銀色の丸い断面は水中翼を舵として回転させるためについている部品です。舵を当てると水中では抵抗となるため、基本的には後部フラップによるバンクによる横向きの力で旋回を行うことになっていて、旋回中の舵は基本的に直進方向を向いています。ただ、旋回を開始するときには旋回モーメントを発生させるために舵を切るようです。

左右両端にある緑の円筒形の部品はショックアブゾーバー。流木などに衝突したときに衝撃を吸収して船体への損傷を抑えます。
しかしクジラの前には衝撃を吸収しても吸収しきれず水中翼が折れてしまい、その先端の突起が船底に突き刺さって浸水してしまうような事故もあったそうです。現在も大型海洋生物の多い区間では徐行をしていますが、ジェットフォイルにとってクジラは大敵。イルカは避けられるそうですがクジラは回避が困難とのこと。
ちなみに、前部水中翼の先端からスピーカーでクジラ漁を想起させる音などを出すことでクジラを忌避させるような仕組みにはなっているそうです。


次に案内されたのがエンジンです。
これがジェットフォイルの心臓部。アリソン(現・ロールスロイス)501-KF型エンジンです。

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このエンジンは航空機用T-56エンジンを船舶向けに改良したエンジンで、航空機ではP-3C、C-130などの軍用プロペラ機に使用されています。
これらの航空機には自衛隊用に川崎重工がロッキード社からライセンス生産した機体などがあります。ジェットフォイルはボーイングの技術を川崎重工がライセンス継承したものですが、いろんなところで業界のつながりが見えますね。
このエンジンは取り外されたもので、川崎明石エンジニアリングという、ロールスロイスからライセンスを受けた整備会社に送られます。1ヶ月ほどの検査期間ではとてもこの精密なエンジンを整備できないので、あらかじめ整備済みのエンジンと交換することで保守されています。
つまり1年おきにエンジン音がちょっと変わる…?なんてことを想像してみたり。ちょっと注意して録音してみたいですね。
なにせ原型は70年前に開発された大昔のエンジンで、現在は生産終了しています。軍用P-3Cも少しずつ減ってきているこの頃、保守部品も途絶えてきてエンジン保守にも苦労があるようです。

さて、一般的なエンジンの基本的な動作原理として、吸気、圧縮、燃焼、排気が挙げられます。
エンジンは燃焼の爆発力でピストンやタービンを動かしますが、燃焼のためには温度を上げる必要があり、エンジンでは機体の状態方程式に基づいて圧縮を行い急激に空気温度を上昇させ、高音の空気に燃料を混ぜて爆発させます。
ガスタービンエンジンでは、吸気口のある前段に圧縮機と呼ばれる特殊な送風機があり、その後ろに燃焼器と呼ばれる爆発を生む装置、そしてその後ろにシャフトを回転させるタービンがあって排気口へつながります。
このシャフトの回転でさらに圧縮機が空気を送り込み、燃料を噴射し続ける事で燃焼し続ける仕組みになっているのです。

ガスタービンエンジンは、ディーゼルエンジンのようなガタガタ動く部品がなく軽量で高速回転できるのが魅力です。一方でプロペラなどを回転させたい時には回転力(トルク)が不足します。なので自転車の1段目のようにギヤで減速してやる必要があります。その減速機も見せていただいたので、それは後程。

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逆を向いてこちらは圧縮機側から燃焼器を眺めた画像です。こちらから吸気をします。
吸気口の上にグレーの機械がありますが、これがスターターというエンジン始動に関わる部品です。
エンジンの燃焼には圧縮空気が必要で、そのためには圧縮機が十分な速度で回転する必要があります。しかし圧縮機を回転させるためには燃焼によってタービンを回転させる必要があります。エンジンが停止しているとタービンは回らないのでこのスターターがエンジンシャフトを外部から回転させることによって十分な回転を確保して、圧縮空気の生成と燃焼を開始させるのです。

ただ、航空機の場合はAPU(補助電源装置)で作った圧縮空気を圧縮機に送り込むことで始動します。いっぽうジェットフォイルの始動はシャフトを機械的に回転させて圧縮機を回すもので、油圧モーターという油圧を回転運動に変換する構造の装置が取り付けられています。このエンジン始動方式が航空機とジェットフォイルの違いです。
そしてスターターを動作させる油圧はどこから作られるのか。実は、ガスタービンエンジンを動かすために別のエンジンを積んでいるのです。


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この黄色いエンジンがディーゼル発電機です。
左の油圧ポンプが接続され、これが船内で使用する油圧を供給しています。

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エンジンにはさらに発電機(AC440V、60Hz)も接続されています。60Hzは鉄道車両でも主流ですがヨーロッパでは50Hzが主流。これもアメリカ由来のせいでしょうか。

ガスタービンエンジンが停止しているときにガラガラとディーゼルエンジンの音がするのは、
船内の照明など電源を供給するためです。
この発電機は2台ありますが、1台壊れても1台で給電し、それが壊れても最低限の機器はバッテリーで動くよう3重の安全対策が取られています。

さて、ここまでがジェットフォイルのエンジンの構造でした。
エンジンを起動するだけでもたくさんの機器が動く必要があるんですね。


ということで、今朝乗ってきたジェットフォイルのエンジン始動動画から、
ガスタービンエンジンで何が起こっているのかを考察してみました。
YouTubeショート動画に切り出してみたので、お楽しみください。




ジェットエンジンの始動音というのは実は油圧スターターの音だったんですね。

工場の中には、さらにこんな部品もありました。

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後部屋根上にある飾り煙突です。


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飾り煙突の中にはダクトが入っています。
ガスタービンエンジンは1階席後方に設置されているので、飾り煙突まで2階客室後方に排気の通り道があります。

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では吸気はどこでやるのかというと、これも客室後方にあるルーバから行っており、パワー関係は全て客室後方に集中して配置されています。
航空機の設計の視点で見たとき、後方水中翼が船体を持ち上げるためには、水中翼は船の重心の直下にあるのが望ましいと言えますから、この後ろでっかちな重量配分もよく考えられたものなのでしょう。前部水中翼の舵も僅かな角度でモーメントを作れるのでしょうね。

そして飾り煙突が取り払われているのが見えますね。

そのあとは、船体後部の架台に上りました。

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なかなか見れないこのアングル。

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セブンアイランド友のトモです!!(渾身のギャグ)

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白いところにある大きな扉は、ガスタービンエンジンを格納しているところで、エンジンを吊り上げながら取り外すそうです。航空機エンジンのメンテナンスと同様の手順ですね。

その上にはディーゼル発電機の排気口があります。ロープが煙突に引っかからないように保護用のフレームが出っ張っています。


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こちらは中央部の水中翼のケーシング。
上部に油圧のフックがあり、水中翼を格納するとフックに油圧が掛かりロックされます。
次は船内へ。



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1階席後方の座席が取り払われて養生され、床が開いています。


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ここは機関室に入る点検口。
通常カーペットに隠れているものの、朝の点検などで機関士が入るため、カーペットに切り込みが入っているので見てみてくださいとのこと。23日にクルージングに参加するのでその時に1階席に当たったら見てみることにしましょう。
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そして大きな穴から顔を出しているのがウォータージェット推進器の減速機です。
通常時は画面向かって奥の方にガスタービンエンジンのシャフトが繋がっています。


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減速機とガスタービンエンジンの間にあるクラッチが外らされているのが分かります。
この減速機によって回転数を落とすことでトルクを獲得して、下方にあるウォータージェット推進器のシャフトを回転させます。
ここの構造をあまり理解していなかったので、給水口の水の経路が分かるような写真を撮っていませんでした。もっと勉強しなくてはなりません。

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2階席へ移動すると、後方に煙突の通路がありました。
かなり分厚い壁ですね。断熱や遮音の狙いがあるのでしょうか。


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それでは今度は、あこがれの、コックピットに潜入します。


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セブンアイランド友は1989年、川崎重工がライセンス生産した川崎ジェットフォイル929の3番船です。


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コックピットはかなり飛行機という感じです。
左が機関長、右が船長という配列です。
基本的に操縦桿の操作で旋回することができるそうです。

旋回はバンクだけで行い、ウォータージェット推進の偏向や舵の使用は艇走状態の時に限られるとのことでした。これ意外でしたが、あとで調べると旋回の際に横向きのモーメントを発生させることが水中抵抗を増やして速度低下を引き起こすためと学びました。

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機関長側のコンソールは異常系を示すためのボタンで、全て消灯していることを確認します。
このような計器類を見ながら、さらに前方障害物やクジラの存在を常に監視しながら運航するとのこと。私がぐっすり眠っている間にコックピットでは緊張の時間が流れているのだなと感じました。


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なかなか見れないジェットフォイルの張り出し部分を拝みます。


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ここで、アイ・エス・ビーが誇る設備についてご紹介しましょう。

このセブンアイランド友は現在、陸上に上がっています。
私はセブンアイランド結の進水式のようにクレーンで持ち上げてドックに上架するものだと思っていました。
しかし実は、決してクレーンで持ち上げてきたわけではありません。
その秘密が、画面右に見える「シンクロリフト」という、ドックと海を行き来するための特殊な装置。
この台が立体駐車場のように海中に沈みこむようになっていまして、
沈んでいる間に船をセットして上昇させると、架台にのった状態で持ち上がるわけです。
そして、架台に乗せたまま、鉄道のトラバーサのように構内を移動できるようになったいます。



世界には250か所ほどの実用例があるようですが、
アイ・エス・ビーさんは日本で初めてシンクロリフトを導入し、
国内では他に沖縄に1社導入されている程度だそう。

通常のドックでは水をためて船を入れ、水を抜くという作業を行うため、
水抜きの日数や、スケジュール調整に労力を費やしていました。
しかしここはシンクロリフトの採用によってこの手間を一切排し、急な入渠が必要になったときでも24時間対応可能な設備を実現しています。そのためとても頼もしい造船所とのこと。

確かに今まで見たことのないようなスタイルの造船所だと思いました。


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名残惜しいですが見学はこれにて終了。

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とても貴重な勉強の機会を頂きとてもうれしく思います。
やはり多くの文献を読んでも、実物と乗務経験ある方の解説の説得力は違いますね。


最後にアイ・エス・ビーさんの造船所についての資料まで頂いてしまいました。
至れり尽くせりでありがとうございます。
また何度でもお越しくださいと言われたので、言われましたよ私。愛や大漁も是非に……。




ここから1時間半程度バスに揺られていたのですが、もう全く記憶にありませんでした。
5時に起きて6時に家を出て7時半に竹芝ですからね。


気が付いたら竹芝近くにいました。



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ということで、無事に戻ってくることができました。

個人としてのこのツアーの感想は大満足でした。
今回は船を体験することにスポットが置かれて船が好きな人がもっと好きになる、そんなツアーだったと思います。その点に関してはもう、2日たってもまだ興奮するとても素晴らしいツアーでした。

では、せっかくですから船の魅力について、少し考えてみましょうか。
御船印は船会社と利用者を、そして船会社と船会社をつなぐ取り組み。つまりは1を10にする取り組みだと思っているんですが、多分瀬戸内の人とかならともかく、関東圏の人にとっては0を1にするところが重要なのかなと思ったり。
乗り物オタクになるとどうしても乗り物そのものに目が行ってしまうんですが、
観光客としての視点を持とうとして考えると、今年に入って大島に旅行するようになり、伊豆諸島が身近な観光地になったことで船という存在の解像度が上がったかなというイメージがあります。
きっと金谷が身近な遊び場だと気づいた人には東京湾フェリーの解像度がぐっと上がるのでしょう。

その点、大島が東京や神奈川から身近な島になったのは今回の目玉だったジェットフォイルの偉大な功績で、今回の背景技術についても大いに勉強になる旅だったと思います。
東海汽船のジェットフォイルには建造から40年以上活躍する経年船もあり、後継船問題はまだまだ強く残っています。
こういった問題も、船旅が、あるいは船旅の目的地が身近になることで少しずつ周囲の関心を集められるのではないかと思います。いかに高速船航路が人々の生活を支えるか、あなたの生活を支えるか。というところで。

弊ブログの読者層は主に横浜や湘南の若い方なので、「船に乗ってみたいという気はするが、酔わないか、切符はどう買うか、持ち物は…」などと思っている人もいるでしょう。かつて私もそうでした。
オススメなものをいくつか挙げておきますね。

まずは近場の水上バスなどに気軽に乗ってみるのが良いかと思います。特に何も用意せず乗れます。ちょっと移動のついでに寄り道してみる感覚で。御船印ないところが多いけど。

横浜港海上交通船シーバス

東京都観光汽船
江の島べんてん丸

次に少し大きめな船に乗ってみるとかですね。
ちょっと天候とか気にした方がいいかなと言う感じですが、迷子になることはないと思います。船内では軽食が食べれたりするので、動くカフェに立ち寄る気持ちで乗れる船です。

東京湾フェリーの往復

東海汽船の横浜→東京航路(毎年10月~4月の土日限定)

この辺りを一回やってみて、次のステップが、東海汽船の東京~大島あたりがいいのではないかと思います。この辺は行きと帰りで港が違うとか少し制約が増えたくるので慣れがいると思います。


もし不安であれば閑散期を中心に添乗員が大島の主要観光施設へ連れてってくれるツアー形式のものがあるのでそちらを選ぶのが安心かと思います。
本ブログが、迷える若人の船旅デビューに役立つことを願います。

最後になりますが、
小林希様、東海汽船、東京湾フェリー、アイ・エス・ビーの各社様、
素敵な旅をありがとうございました。